養生今昔 7月~江戸時代のアロマセラピー~
2020.7.8
かつての日本には、西洋に伝わるアロマセラピーのように香りを健康に活かすという考え方は無かったのでしょうか?貝原益軒『養生訓』巻7の中に、香りによる養生の記述がありましたのでご紹介いたします。
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日本の歴史の中で香りに関する事と言えば、「香道」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
「香道」は、香木の香りを聞き分けることを楽しむ精神文化であり、芸術的な要素の高いもので、西洋に伝わるアロマセラピーのような、心と体を健康に導くための「療法」という要素はあまり含まれていないように感じます。
では、かつての日本には香りを健康に活かすという考え方は無かったのでしょうか?
貝原益軒『養生訓』巻7の中に、香りによる養生の記述がありました。
香りを楽しむのも養生
諸香は、是をかげば正気をたすけ、邪気をはらい、悪臭をけし、けがれをさり、神明に通ず。
当時は、病気や禍(わざわい)は邪気がもたらすものとされていました。
この一文から、良い香りを嗅ぐことは、心身を健康に保ち天命を全うするための大切な養生の一つであると考えられていたことがわかります。
江戸時代にもアロマセラピー(芳香療法)があったのですね。
それでは、どのように香りを養生に取り入れていたのでしょうか。
益軒流4つの香りの楽しみ方
【たき香】
いくつかの香りを合わせて焚くお香です。今でもお部屋や衣類に香を焚いていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
【掛け香】
「香り袋」や「匂い玉」などのことです。持ち物などに付けて使用したのでしょう。現代でも使われている方法ですね。
【貼け香】
直接体に付ける香のことです。香水や香油のように使ったのではと推測します。
【食香】
食べて香りの良いもののことです。益軒は「透頂香」「香茶餅」「団茶」の3つを挙げています。
何だろう…?と思い調べてみました。
「透頂香」「香茶餅」「団茶」
「透頂香(とうちんこう)」は、外郎薬(ういろうぐすり)とも呼ばれ、仁丹に似た形をした口の中を清浄にして消臭する薬です。
14世紀に中国から伝わり、現在に至るまで同じ製法で製造されていて、小田原の民間薬として、また万能薬として今でも人気があるそうです。
お菓子の「ういろう」とは全く別のものですから注意してくださいね。
「香茶餅(こうさべい)」は、蒸した中国茶葉を固めて乾燥させた固形茶のことで、丸いお餅のような形なので餅茶(へいちゃ)と呼ばれるそうです。
団茶(だんさ)も同じように固めた中国茶の事ですが、四角や筒形など色々な形があるようです。
こちらは中国の方から頂いた餅茶の写真です。
お花のような果実のような甘く清々しいとても良い香りがします。
体の中から綺麗になりそうなお茶です。
邪気を取り除く
益軒は、悪い匂いは悪気や邪気の現れと考えていて、生臭い匂いや排泄物の匂いなども排除したいと考えていたようです。
悪臭対策として次の薬草を薦めています。
・蒼朮(ソウジュツ)を焚く
蒼朮は、キク科植物ホソバオケラやシナオケラなどの根茎です。
植物精油を含んでいて芳香剤、健胃剤、発汗剤としての役割を持っているそうです。
生薬としては、健胃消化、整腸、利尿、滋養強壮などの薬として、現代でも使用されているようです。
益軒は、蒼朮を焚くと悪気が払われるとしています。
・胡荽(コスイ、コズイ)の実を焚く
胡荽はコエンドロの事であるとの注釈が入っていました。
コエンドロはセリ科の植物で、コリアンダー、パクチー、シャンツァイなどと呼ばれるお馴染みのハーブです。好きな方と嫌いな方が分かれる植物ですよね。
コエンドロにも多くの精油成分が含まれていて、健胃、駆風(腸内ガスを排出する作用)、去痰(痰を切る)などの働きがあるそうです。
益軒は、コエンドロの実を焚くと邪気が払われると言っています。
・蘿藦(ラマ、ガガイモ、カガミ)の葉を干して焚く
蘿藦は、ガガイモ科の蔓性(つるせい)の多年草です。
葉や乾燥した種子は滋養強壮に、生の茎葉から出る白い汁には解毒の作用があるので、イボやヘビ、虫刺されに、種子の白毛は切り傷の止血になります。
また、若芽は、熱湯でゆでて、水にさらしてアク抜きをしてから、油いため、煮物、混ぜご飯などにして食べることができるそうです。
益軒は、排泄物の匂いを取り去るには葉を焚く、手の穢れには生の葉を揉んで塗る、若葉を煮て食べると味も性も良いと言っています。
江戸時代の香り養生についての記述から、中国の優れた薬草療法を参考にして養生を行っていたことがわかります。
洋の東西を問わず、昔から植物の香りは私たち人間にとって大切な存在だったのですね。
人生100年時代を迎えた今日だからこそ、健康長寿をめざして、体に良い植物とその香りを役立てていきたいものです。
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